大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)55号 判決

原告の請求原因及び主張のうち、一ないし三の事実並びに本件発明が煙道ガスの脱硫を三〇〇℃より上の(「超える」の意)温度で行うこととした点に新規性を有することは当事者間に争いがない。

そこで本件審決にこれを取消すべき事由があるかどうかについて判断する。

本件発明は、「酸素を含む煙道ガスから二酸化硫黄を除去する」方法において、その「煙道ガスを、酸化銅を含有する固体担体物質から成る受容体と三〇〇℃より上の温度で接触させ、そしてこの受容体を還元ガスの助けにより再生させる」ものであるところ、一方、成立について争いのない甲第三号証明細書(引用例)中には、煙道ガスのような酸化性のガスを脱硫固定化剤に一〇〇℃(好ましくは一二〇℃)ないし三〇〇℃で接触させて得られた硫黄含有受容体を、再生工程において三五〇℃ないし八五〇℃の温度で酸素を含む酸化性のガスと接触させ、右受容体から二酸化硫黄を分離させることが記載されている(第二欄四二行ないし五九行――訳文六頁六行ないし七頁一行――、第三欄四五行ないし五三行――訳文九頁一二行ないし末行――及び特許請求の範囲の項)。ところで、本件発明におけるように酸化性の煙道ガスを、酸化銅を含有する固体担体物質(引用例では脱硫固定化剤)から成る受容体と三〇〇℃より上の温度で接触させて脱硫反応に付すれば、すなわち、その受容体を、例えば引用例に記載されているような三五〇℃ないし八五〇℃の温度で、煙道ガスに含有されている酸化性ガスと同じ、酸素を含む酸化性ガスと接触を続ければ――引用例においては、受容体に付着した二酸化硫黄を、酸化性ガスとの接触で受容体から分離させるため、すなわち、受容体を再生させるために、右のような三五〇℃ないし八五〇℃の温度を使用するものであるから――、受容体に付着した二酸化硫黄は受容体から分離されるであろうと一応考えられるから、脱硫工程で、酸化性ガスを含有する煙道ガスから二酸化硫黄を受容体が受容しても、固定せずに分離してしまい、脱硫―→再生―→脱硫の工程サイクルの反応が阻害されると予想するのが通常である。ところが、本件発明の明細書(成立について争いのない甲第二号証)によれば、本件発明においては、三〇〇℃より上の温度での脱硫が可能であることを実験により確認してこれを採用したものであり、しかもその脱硫効果は優れていることが認められる(実施例1、2には煙道ガス内の二酸化硫黄の九九パーセントが受容体に化合した旨の記載がある。)。

右の点及び引用例には本件発明において使用する酸化銅を含有する受容体が、煙道ガスの脱硫にあたり、三〇〇℃を超えて使用可能であることについては、なんらの記載もなく、示唆されてもいない(引用例の脱硫温度は一〇〇℃ないし三〇〇℃である。なお、脱硫温度が本件発明のように高いことは、再生温度が例えば引用例のように三五〇℃ないし八五〇℃程度である場合は、温度変化が少なくて有利と考えられる。)点を考えると、本件発明は引用例の記載から当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

被告は、「原告は本件発明の被処理ガスが三〇〇℃より上の温度で四〇〇℃以下の煙道ガスであると主張するが、本件発明の明細書の実施例1及び4には煙道ガスをそれぞれ四一〇℃、三〇〇℃で接触させること及びこれにより明細書記載の作用効果が生ずることが記載されているから、原告主張の右温度範囲外においても有効な脱硫が行われていることが明らかであるから、原告主張の温度範囲限定も技術的には無意味であり、また実施例の三〇〇℃というのは引用例における脱硫温度と一部重複することになるから、引用例の場合も本件発明と同等な効果を生ずるものといわざるを得ない」と主張するが、原告が本訴において明細書の記載(本件明細書によれば、その特許請求範囲における脱硫温度は「三〇〇℃より上」であつて、上限が四〇〇℃であるという限定はない。)を離れて脱硫温度の主張をしたからといつて、その主張に即して判断しなければならないわけではなく、また、実施例において三〇〇℃で脱硫を行つた旨の記載があり、その限りにおいて引用例記載のものと一部重複するところがあつたとしても、そのことからただちに、本件発明が引用例記載の発明から容易に発明できたものとすることができないことは、前記説明からおのずから明らかである。被告の主張は、理由がない。

被告は、更に、「煙道ガスとは燃焼ガスと同じであり、一〇〇〇℃以上のものであるから、本件発明の脱硫温度が三〇〇℃ないし四〇〇℃であるとしても、脱硫処理の際に燃焼ガスを冷却しなければならず、冷却を要する点では引用例と同じであり、脱硫処理に際して煙道ガスの温度を三〇〇℃ないし四〇〇℃とすることは、当業者なら必要に応じて適宜になされるところであるから、このことに進歩性があるとはいえない」と主張するが、本件発明の進歩性として問題となるのは脱硫温度が引用例のものより高いこと自体であり、それが再生温度(本件発明において、特許請求の範囲の解釈上この点の限定の有無につき争いがあるが、この点はさておく。)と関連的に採用されうるところに意味があるから、燃焼ガスを脱硫温度まで下げるには本件発明も引用例もともに冷却を要するという点で同じであるからといつて、そのことから、本件発明の脱硫温度を三〇〇℃より上の温度にすることが当業者なら必要に応じて適宜なされるものであるとすることはできない。この点の被告の主張も理由がない。

以上のとおりであるから、本件発明は引用例に基づいて容易に発明することができたものとした審決は、その余の被告主張について判断するまでもなく違法であつて取消を免れない。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

酸素を含む煙道ガスから二酸化イオウを除去する方法において、上記煙道ガスを、酸化銅を含有する固体担体物質からなる受容体と三〇〇℃より上の温度で接触させ、そしてこの受容体を還元ガスの助けにより再生させることを特徴とする方法

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